東京高等裁判所 昭和60年(ネ)2647号 判決
控訴人
有限会社流通加工センター
右代表者代表取締役
村田稔
控訴人(附帯被控訴人)
村田稔
控訴人
三和興産株式会社
右代表者代表取締役
米本節子
控訴人
伊藤三郎
右四名訴訟代理人弁護士
金子和義
同
氏家茂雄
被控訴人(附帯控訴人)
株式会社サンヨー堂
右代表者代表取締役
小岩井清三
被控訴人(附帯控訴人)
有限会社布施商店
右代表者代表取締役
布施亮一
被控訴人(附帯控訴人)
丸茂食品株式会社
右代表者代表取締役
内藤昇
被控訴人(附帯控訴人)
岡野水産株式会社
右代表者代表取締役
岡野隆壽
右四名訴訟代理人弁護士
和田隆二郎
同
武井公美
同
植田裕
主文
一 控訴人有限会社流通加工センター、控訴人(附帯被控訴人)村田稔の被控訴人ら(附帯控訴人ら)に対する控訴をいずれも棄却する。
二 被控訴人ら(附帯控訴人ら)の附帯控訴及び控訴人三和興産株式会社、同伊藤三郎の各控訴に基づき原判決主文五項以下を次のとおり変更する。
1 控訴人(附帯被控訴人)村田稔は、控訴人伊藤三郎に対し、三和水産株式会社が昭和五七年九月二二日控訴人(附帯被控訴人)村田稔に対し原判決添付別紙譲渡債権目録(一)の1記載の債権を譲渡した行為は詐害行為として取消された旨の通知をせよ。
2 控訴人(附帯被控訴人)村田稔は、控訴人三和興産株式会社に対し、三和水産株式会社が昭和五七年九月二二日控訴人(附帯被控訴人)村田稔に対し原判決添付別紙譲渡債権目録(一)の2記載の債権を譲渡した行為は詐害行為として取消された旨の通知をせよ。
3 被控訴人ら(附帯控訴人ら)の控訴人三和興産株式会社、同伊藤三郎に対する請求をいずれも棄却する。
4 被控訴人ら(附帯控訴人ら)のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じて、控訴人有限会社流通加工センター、控訴人(附帯被控訴人)村田稔と被控訴人ら(附帯控訴人ら)との間に生じた部分は控訴人有限会社流通加工センター、控訴人(附帯被控訴人)村田稔の負担とし、控訴人三和興産株式会社、同伊藤三郎と被控訴人ら(附帯控訴人ら)との間に生じた部分は被控訴人ら(附帯控訴人ら)の負担とする。
事実
一 控訴事件につき、控訴人有限会社流通加工センター、控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)村田稔、控訴人三和興産株式会社、同伊藤三郎訴訟代理人は、「1 原判決中、控訴人ら敗訴の部分を取消す。2(一)(本案前として)被控訴人らの控訴人三和興産株式会社、同伊藤三郎に対する訴をいずれも却下する。(二)(本案として)被控訴人らの請求をいずれも棄却する。3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら(附帯控訴人ら、以下「被控訴人ら」という。)訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
附帯控訴事件につき、被控訴人ら訴訟代理人は、「1 原判決中、被控訴人ら敗訴の部分を取消す。2 控訴人村田稔は、控訴人三和興産株式会社、同伊藤三郎に対し、主文二項1、2の各通知をせよ。3 訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、控訴人ら訴訟代理人は、附帯控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、その記載を引用する。
1 控訴人らの主張
(一) 原判決には次のような事実誤認がある。
(1) 原判決は、理由四において、訴外三和水産株式会社(以下「三和水産」という。)の控訴人三和興産株式会社(以下「控訴人三和興産」という。)に対する昭和五七年九月二一日現在の売掛金債権額を一三九万六四六九円と認定しているが、乙第一六号証(判決)記載のとおり、右債権は一一九万二八八九円である。
(2) 原判決は、理由五において、控訴人村田の三和水産における地位につき名目的取締役であつたにすぎないとの判断を遺脱している。控訴人村田は名目的取締役であつたからこそ三和水産の経営に関与せず、経営内容を全く知らなかつた。
(3) 原判決は、同五において、控訴人村田は小川信用金庫及び埼玉県信用金庫から貸付を受け、これを三和水産に貸付けたと認定しているが、右両信用金庫からは会員でないと融資を受けられないので、三和水産は便宜上右両信用金庫の会員であつた控訴人村田名義を借用して同人を通じて融資を受けたもので、真実の借主は三和水産である。
(4) 原判決は、同五において、控訴人村田は昭和五七年九月二〇日三和水産の取締役小嶋修己から、同会社の資金繰りが悪化し同月末の手形決済の見込みがたたない旨言われたと認定しているが、控訴人村田は同月二七日の融通手形決済の見込みがたたないと言われたにすぎない。
(5) 原判決は、同五において、控訴人有限会社流通加工センター(以下「控訴人センター」という。)と三和水産代表者長野重忠との間に売掛金債権を領収済みとする合意があつたと認定しているが、右のような合意はなかつたし、仮に何らかの合意があつたとしても、それを債務免除と解するのは誤りである。
(6) 原判決は、同五において、控訴人村田は昭和五七年九月二一日三和水産の取締役小嶋から同会社振出の小切手二通の交付を受け、これを現金化したうち五九〇万八〇〇〇円を控訴人村田の三和水産への貸付金(控訴人村田が小川信用金庫、埼玉県信用金庫、親戚から借受けて三和水産へ貸付けた分)の返済として受領したと認定しているが、控訴人は村田は右小切手の交付を受けていないし、現金を受領していない。右貸付金については、小嶋が直接右両信用金庫及び控訴人村田の親戚へ返済したもので、そのうち小川信用金庫及び親戚に対する返済分は、控訴人村田が三和水産の代理人もしくは使者として預かつたことがあるにすぎない。
(二) 原判決には、詐害行為の成立する主観的要件について次のような事実誤認、法解釈の誤りがある。
(1) 原判決は、三和水産と控訴人村田との間に昭和五七年九月二二日締結された債権譲渡契約につき詐害行為性を認め、債権譲渡は担保の供与であつて、既存債務の履行と異なるから、債務者において積極的に債権者を害する意思のもとに相手方と通謀することまでは必要でなく、他の債権者を害することの認識があれば足りると判示しているが、債務の履行よりも担保の供与は一般的に他の債権者への影響度は弱いのであるから、その主観的要件としては債務の履行の場合と同じであると解すべきである。
本件においては、控訴人村田の三和水産に対する求償債権の代物弁済として債権譲渡がされたところ、これは、相当価格による代物弁済であつたから、債務者が特定の債権者と通謀し他の債権者を害する意思をもつてしたような場合を除き、原則として詐害行為とはならないというべきである。
また、三和水産代表者長野が右債権譲渡に応じたのは、長野が六時間にも及ぶ控訴人村田らの追求に疲れ果てたこと、三和水産が会社設立当初より控訴人村田から多額の資金援助を受けてきたことにつき感謝の気持があつたこと、三和水産が数日前に三〇〇万円を借り増して控訴人村田を騙す結果になり良心の呵責を感じたことによるものであり、決して債権者である控訴人村田と通謀したことによるものではない。
(2) 三和水産代表者長野が控訴人村田に対し昭和五七年九月二〇日領収書を交付したことについて、債務免除、相殺の合意のいずれも認めえないのであるが、仮に相殺の合意があつたとしても、前記(1)と同様の主観的要件が必要であると解されるところ、控訴人村田が自己の求償債権について返済を受けたとの領収書を交付していないという外見からしても、債権者との通謀の事実はない。
(3) 控訴人村田が昭和五七年九月二一日ころ貸金の返済として金員を受領したとの点について、そのような事実はないのであるが、仮に右のような事実が認められるとしても、控訴人村田は三和水産の名目的取締役にすぎず、小嶋が小切手を振出して現金化したことも事後に知らされた程であり、小嶋と控訴人村田との間に通謀の事実はない。
(三) 原判決は、債権譲渡を詐害行為として取消す場合に、詐害行為取消権の効力を相対的なものとしながら、債権譲渡の取消により第三債務者に対し復帰した債権の履行を直接請求できると判示しているが、右は法解釈を誤つたものである。詐害行為取消権による取消は当該法律行為の当事者以外に及ぶことはありえないから、債権者は第三債務者に対し右のような請求をすることができず、また、取消の効果が右のように相対的なものである以上、債権者代位権を行使することも許されないと解すべきである。したがつて、第三債務者である控訴人三和興産、同伊藤は、当事者適格を欠くから、被控訴人らの右控訴人らに対する訴は不適法として却下されるべきである。
2 被控訴人らの主張
控訴人らの主張はすべて争う。
3 証拠〈省略〉
理由
一当事者、被控訴人らの三和水産に対する債権、三和水産の控訴人センター、同三和興産、同伊藤に対する債権、三和水産の詐害行為の成否について
これらの点に関する当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由一ないし六項と同様であるから、その説示(原判決一二枚目表二行目から二〇枚目裏末行まで)を引用する。
1 原判決一三枚目表四行目「認めることができ、」の次に「前掲乙第一六号証をもつて右認定を左右するに足りず、他に」を加える。
2 同一三枚目裏末行「同証人の証言」を「原審証人長野重忠、当審証人金子和義の各証言」と改める。
3 同一五枚目裏末行「合計金三九七万円」を「合計金三九四万円」と改める。
4 同一六枚目表末行から一七枚目表一行目「金子弁護士の事務所」を「金子弁護士の自宅」と改める。
二控訴人村田の詐害行為取消についての通知義務、控訴人三和興産、同伊藤の債務履行義務について
1 まず、控訴人三和興産、同伊藤は、被控訴人らの右控訴人らに対する本件訴は詐害行為取消権の行使により債権譲渡が取消された結果、債務者である三和水産に復帰した債権について被控訴人らが自ら又は三和水産に代位して第三債務者である右控訴人らに対し直接その支払を求めるものであるところ、詐害行為取消の効力は相対的なものであつて、右控訴人らは当事者適格を欠くから、被控訴人らの右訴は不適法である旨主張する。
しかし、右控訴人らの主張は、右主張自体から明らかなように、被控訴人らの詐害行為取消の効力が第三債務者である右控訴人らに及ばないとして、被控訴人ら又は三和水産が右控訴人らに対する債権の主体であることを争つているにすぎないから、被控訴人らの主張を否認する陳述と何ら異なるものではない。したがつて、右控訴人らの右主張は採用することができない。
2 被控訴人らは、詐害行為取消権の行使により債権譲渡が取消されて債務者である三和水産に復帰すべき債権については、債権者代位権に基づき、控訴人三和興産、同伊藤に対し直接その支払を求めうる旨主張するので、検討する。
ところで、詐害行為取消の効力は、相対的であつて、訴訟当事者である債権者と受益者又は転得者との間においてのみ生じるにすぎず、債務者には及ばないから、本件においては、被控訴人らは、債務者である三和水産に代位して第三債務者である右控訴人らに対し履行の請求を求めることはできないと解すべきである。しかし、他方被控訴人は、詐害行為取消による原状回復を計る方法として、控訴人村田に対し、第三債務者である控訴人三和興産、同伊藤に対し債権譲渡が詐害行為により取消された旨の通知をすることを求めることができると解すべきである。
三そうすると、被控訴人らの本訴請求は、詐害行為取消権に基づき、三和水産がした控訴人センターに対する金五九二万〇三八九円の買掛金債務の免除及び控訴人村田に対する金五九〇万八〇〇〇円の借受金債務の弁済と原判決添付別紙譲渡債権目録(一)記載の債権の譲渡を取消し、控訴人センターに対し、免除の取消によつて復活した右買掛金債務につき、被控訴人らの債権額に応じて按分した原判決主文三項記載の各金員及びこれに対する弁済期の後である昭和五七年一一月一日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払(債権者代位権の行使をまつまでもない。)、控訴人村田に対し、弁済の取消によつて返還すべき右借受金債務の弁済につき、控訴人らの同年九月二一日における債権額に応じて按分した原判決主文四項記載の各金員及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払と債権譲渡の取消によつて三和水産に債権者たる地位が復帰した売掛金債権につき、第三債務者である控訴人三和興産、同伊藤に対し債権譲渡が詐害行為として取消された旨の通知をすることを求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり、被控訴人らの控訴人村田に対するその余の請求は理由がないからこれを棄却すべきであり、被控訴人らの控訴人三和興産、同伊藤に対する請求は理由がないからこれを棄却すべきである。
よつて、右と一部結論を異にする原判決は不当であつて、控訴人三和興産、同伊藤の控訴及び被控訴人らの附帯控訴は理由があるから、原判決主文五項以下を主文二項括弧内のとおり変更し、控訴人センター、同村田稔の本件各控訴は理由がないからいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条一項本文を適用し、被控訴人らの仮執行宣言の申立は相当でないから、これを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官佐藤榮一 裁判官篠田省二 裁判官関野杜滋子)